暦
二十四節気と七十二候
茶の湯の季節は、カレンダーの月よりひとまわり細かい「節気」と「候」で動いている。その読み方と、いまがどこか。
節気は、一年の二十四の目盛り
太陽の動きで一年を二十四に分けたもの。ひとつの節気は約十五日。日付は太陽で決まるので、立春は毎年二月四日ごろ、というように年によって一日ずれる程度でほぼ同じ。月の満ち欠けで決まる旧暦の日付とは別の仕組みなので、いまのカレンダーの上でそのまま使える。
候は、節気をさらに三つに分けた約五日
ひとつの節気を初候・次候・末候の三つに分ける。全部で七十二。名前は「霜始降(しもはじめてふる)」のように、その五日ほどの間に起こる自然のできごとを漢字で言ったもので、読みは漢文の読み下し。もとは中国のもので、日本の気候に合わせて江戸時代に作り直されている。
まず八つだけ
二十四を全部覚えなくていい。季節の入口の立春・立夏・立秋・立冬と、真ん中の春分・夏至・秋分・冬至。この八つ(輪の濃い字)を押さえれば、残りはその間に二つずつ入っているだけ。
茶の湯でどう効くか
炉と風炉。立冬のころに炉を開き、立夏のころに風炉に替える。輪の内側の線がその半年ずつ。
銘。候の言葉は、そのまま茶杓の銘の種になる。「桜始開」から初桜、「涼風至」から涼風、「霜始降」から初霜、「山茶始開」から山茶花。今日のページは、きょうの候に合う銘をここから選んでいる。
ひと足先。茶席では暦どおりより少し先の季節を取り合わせることが多い。いまの候の次を見ておくと、取り合わせの目安になる。
日付のこと
二十四節気の日付は国立天文台が毎年「暦要項」で発表する。このサイトは二〇二六年と二〇二七年の表を使っている。候の区切りは節気から五日ずつの近似。
二十四節気を、立春から順に それぞれの三つの候と、その頃の茶の湯
立春りっしゅんいま
2月4日〜2月18日二〇二六年。年により一日前後する
「春が立つ」。暦の上で春が始まる日で、二十四節気の最初にあたる。一年の数え始めでもあり、八十八夜などの日取りはここから数える。寒さはまだ底にある。
梅の蕾がほころび、日なたに春の光が差す。日は少しずつ長くなるが、朝晩の冷え込みは厳しいまま。前日の節分で冬を送り、この頃から最初の強い南風、春一番が吹くことがある。梅の香りが庭に流れ、北国はまだ雪の中。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(2月)
- この月の行事
- 節分・立春・初午・大炉
- 茶花の例
- 椿(西王母・太郎冠者など)・梅・猫柳・福寿草
- 菓子の例
- 鶯餅・うぐいす・雪餅・福豆
魚上氷うおこおりをいずるいま
末候 2月14日〜18日
割れた氷の間から魚が飛び出す
字「魚、氷を上る」。「上」は「いずる」と読み、水面へ出ること。氷の下で冬を越した魚が、割れ目から姿を見せる様子をいう。
このころ川や池の氷にひびが入り、浮いた氷片のあいだに魚の背が見える。水がぬるみ、鯉や鮒が動き出す。魚が氷の上へ飛び出すわけではなく、氷が割れて魚が見え始める景色を、昔の人はこう見立てた。「水温む」は春の季語。
この候の銘薄氷
雨水うすいいま
2月19日〜3月4日二〇二六年。年により一日前後する
「雨の水」。降る雪が雨に変わり、積もった雪や氷が解けて水になる頃、という意味。立春の次の節気で、農事の準備を始める目安とされた。
雪の日が減り、冷たい雨や霧雨が増える。屋根の雪が落ち、山の雪解け水が川へ流れ込む。庭の梅は盛りを迎え、地面を割ってフキノトウが顔を出す。朝はもやがかかって山の輪郭がやわらぐ。寒の戻りで雪が降る日もある。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(2月)
- この月の行事
- 節分・立春・初午・大炉
- 茶花の例
- 椿(西王母・太郎冠者など)・梅・猫柳・福寿草
- 菓子の例
- 鶯餅・うぐいす・雪餅・福豆
土脉潤起つちのしょううるおいおこるいま
初候 2月19日〜23日
雨が降って土が湿り気を含む
字「土の脉、潤い起こる」。「脉」は「脈」と同じ字で、筋のこと。地中を水が筋のように巡り、冬に固く乾いた土がしっとりとゆるむ。
このころ雨上がりの畑の土が黒く湿り、霜柱がとけてぬかるむ。冬のあいだ締まっていた土が、足の下でやわらかくなる。農家は畑を起こし、畦を直す。降り方も冬の雨と違って細く静かで、これを春雨と呼ぶ。春雨は春の季語。
この候の銘下萌
霞始靆かすみはじめてたなびくいま
次候 2月24日〜28日
霞がたなびき始める
字「霞、始めてたなびく」。霞は遠くの景色をぼかす薄いもや。「靆」は雲が低く垂れ込め、たなびくさまを表す難しい字。
このころ遠くの山や野の輪郭がぼんやりと溶け、淡い帯が空に引かれる。昼の景色は「霞」、夜は「朧」、秋は「霧」と、季節と時間で言葉を使い分ける。春の山を「山笑う」と呼ぶのも、芽吹きで色がやわらぐ山の姿から。
この候の銘春霞
啓蟄けいちついま
3月5日〜3月19日二〇二六年。年により一日前後する
「啓」は開く、「蟄」は虫が土の中にこもること。冬ごもりの虫が戸を開いて出てくる頃という意味。立春、雨水に続く三つ目の節気で、次が春分。
日だまりで蟻やてんとう虫が動き出し、畑の土を返すと虫が顔を出す。冬眠していた蛙も目を覚ます。菜の花が黄色く咲き、どこからか沈丁花の香りが流れてくる。春の雷が鳴る日もある。暖かい日のあとにまた冷え込む朝が来て、気温は行き来しながら上がっていく。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(3月)
- この月の行事
- 雛祭・利休忌・彼岸
- 茶花の例
- 桃・菜の花・椿・貝母・雪柳
- 菓子の例
- 菱餅・草餅・引千切(ひちぎり)・桜餅
蟄虫啓戸すごもりむしとをひらくいま
初候 3月5日〜9日
冬ごもりの虫が出てくる
字「蟄虫、戸を啓く」。蟄虫は冬のあいだ土の中にこもっていた虫。戸は巣穴の入り口で、啓くはそれを開けて外へ出てくること。
このころ暖かい日に、石の下や土の穴から虫が出てくる。蟻が列を作って歩き出す。「啓蟄」「蟻穴を出づ」は春の季語。昔は雷の音に驚いて虫が出ると考え、この頃の最初の春雷を「虫出しの雷」と呼んだ。
桃始笑ももはじめてさくいま
次候 3月10日〜14日
桃の花が咲き始める
字「桃、始めて笑う」。「笑」は花が咲くこと。花がほころぶ様子を人の笑顔にたとえた。「咲」の字も、もとは「笑」の異体字として生まれた。
このころ葉に先立って、淡い紅色の桃の花が枝にびっしりと咲く。桃の節句は旧暦では桃の咲く頃にあたり、今の暦ではまだ蕾のことが多い。足元は菜の花の黄色。「桃の花」は春の季語。
この候の銘桃源
菜虫化蝶なむしちょうとなるいま
末候 3月15日〜19日
青虫が紋白蝶になる
字「菜虫、蝶と化る」。菜虫は大根や菜の葉につく青虫。「化」は姿を変えること。青虫が蝶になる変態を、昔の人は「化ける」と書いた。
このころ菜の花畑の上を、白い蝶がひらひらと飛ぶ。モンシロチョウは蛹で冬を越し、暖かくなると羽化する。春になって初めて見る蝶を「初蝶」といい、春の季語。キャベツや大根の葉に、黄色い小さな卵を産みつける。
この候の銘胡蝶
春分しゅんぶんいま
3月20日〜4月4日二〇二六年。年により一日前後する
「分」は昼と夜がほぼ半分ずつに分かれること。太陽は真東から昇って真西に沈み、この日を境に昼が夜より長くなる。春の真ん中の節気。
春分の日を中日とした前後七日間が春の彼岸で、墓参りに出る。「暑さ寒さも彼岸まで」と言い、冬の寒さが抜ける頃。土手に土筆が伸び、タンポポが黄色く咲く。空高くヒバリが鳴く。桜は蕾が色づき始め、日の入りが目に見えて遅くなる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(3月)
- この月の行事
- 雛祭・利休忌・彼岸
- 茶花の例
- 桃・菜の花・椿・貝母・雪柳
- 菓子の例
- 菱餅・草餅・引千切(ひちぎり)・桜餅
雀始巣すずめはじめてすくういま
初候 3月20日〜24日
雀が巣を作り始める
字「雀、始めて巣くう」。「巣くう」は巣を作ること。雀は人家の近くに巣をかける鳥で、軒下や瓦の隙間を選ぶ。
このころ雀が藁や枯れ草をくわえて、瓦の隙間や戸袋に飛び込む。冬のあいだ群れていた雀が、つがいで動く姿が目立つ。「雀の巣」は春の季語。巣立ったばかりの「雀の子」も春の季語で、少し先の景色になる。
桜始開さくらはじめてひらくいま
次候 3月25日〜29日
桜の花が咲き始める
字「桜、始めて開く」。「開」は蕾がほころび、花が開くこと。日本では古くから「花」といえば桜を指すことが多く、その開花が春の大きな区切りになった。
このころ南から順に、桜の便りが北へ上がっていく。ソメイヨシノは葉が出る前に花が開き、枝一面が淡い桃色になる。開花の知らせは、気象台が決めた木に花が五、六輪咲いたときに出る。咲く頃の冷え込みを「花冷え」、曇りを「花曇り」と呼び、どちらも春の季語。
この候の銘初桜
雷乃発声かみなりすなわちこえをはっすいま
末候 3月30日〜4月4日
遠くで雷の音がし始める
字「雷、乃ち声を発す」。「乃」は「そこで」「やっと」の意。雷を声にたとえ、春になって雷がやっと鳴り出すことをいう。
このころ遠くで低く、ごろごろと春の雷が鳴る。夏の夕立のような激しさはなく、暖かい空気と冷たい空気がぶつかって起きる。「春雷」「初雷」は春の季語。雷のあとに雨が続き、菜種梅雨と呼ばれる長雨になることもある。
清明せいめいいま
4月5日〜4月19日二〇二六年。年により一日前後する
「清浄明潔」を縮めた名とされる。万物が清らかで明るく見える頃のこと。草木の芽が出そろい、空が澄む。春の盛りで、次が穀雨。
桜が満開になり、風が吹くたびに花びらが舞う。散った花びらが水面を流れる様子は「花筏」と呼ばれる。山は新緑の薄い色に変わり、野ではレンゲが一面に咲く。チューリップも咲き並ぶ。花の盛りを雨が散らす日もあり、これを「花散らしの雨」という。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(4月)
- この月の行事
- 花見・灌仏会
- 茶花の例
- 山吹・都忘れ・一人静・白山吹・利休梅
- 菓子の例
- 桜餅・花見団子・利休饅頭
鴻雁北こうがんかえるいま
次候 4月10日〜14日
雁が北へ帰っていく
字「鴻雁、北す」。鴻は大きな雁、雁は小さな雁を指すとされる。日本で冬を過ごした雁が、北の繁殖地へ帰っていく。
このころ夕方の空を、雁がV字や斜めの列を組んで北へ渡る。秋に来て冬を日本で過ごした鳥が、春に帰る。雁は秋の季語だが、春に帰る姿は「帰雁」「雁帰る」と言って春の季語になる。いま雁が見られる場所は限られる。
この候の銘清明
虹始見にじはじめてあらわるいま
末候 4月15日〜19日
雨上がりに虹が出始める
字「虹、始めて見る」。「見」は「みる」でなく「あらわれる」の意。虹に虫偏が付くのは、空にかかる大蛇や竜のような生き物と見たため、と言われる。
このころ春の雨上がり、薄日のなかに虹が出る。色が淡く、すぐ消えることが多い。「虹」だけなら夏の季語で、春は「春の虹」と断って使う。朝の虹は雨、夕方の虹は晴れ、という言い伝えがある。
この候の銘清明
穀雨こくういま
4月20日〜5月4日二〇二六年。年により一日前後する
「百穀を潤す雨」の意。田畑を潤し、穀物の種が芽を出すのを助ける春の雨が降る頃。種まきの目安になった。春の最後の節気で、次が立夏。
雨のたびに草木の緑が濃くなる。藤の花が房を垂らし、山吹が黄色く咲く。田では田起こしが進み、水が引かれ、苗代に籾が蒔かれる。立春から数えて八十八日目の八十八夜が近く、霜の心配もほぼ去る。八重桜が最後の花を咲かせ、ツツジの蕾も膨らむ。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(4月)
- この月の行事
- 花見・灌仏会
- 茶花の例
- 山吹・都忘れ・一人静・白山吹・利休梅
- 菓子の例
- 桜餅・花見団子・利休饅頭
葭始生あしはじめてしょうずいま
初候 4月20日〜24日
葦が芽を吹き始める
字「葭、始めて生ず」。「葭」は葦のこと。「あし」は「悪し」に通じるとして、「よし」とも呼ばれた。水辺に群れて生える背の高い草。
このころ川岸や沼のぬかるみで、枯れた葦のあいだから槍の穂先のような芽が出る。この芽は「葦の角」「葦牙」と呼ばれ、春の季語。水がぬるみ、水辺の景色が枯れ色から緑へ変わっていく。
この候の銘若草
霜止出苗しもやみてなえいずるいま
次候 4月25日〜29日
霜が終わり稲の苗が育つ
字「霜止みて苗出ず」。「止」は終わること。霜が降りなくなる頃、稲の苗が伸び出す。苗代は、種を蒔いて苗を育てる小さな田。
このころ最後の霜を「別れ霜」「忘れ霜」と呼び、どちらも晩春の季語。「八十八夜の別れ霜」といい、この頃を過ぎれば遅霜の心配が減る。苗代では蒔いた籾から細い緑の苗が並んで伸びる。霜は作物を傷めるので、農家はこの日を待った。
立夏りっかいま
5月5日〜5月20日二〇二六年。年により一日前後する
「夏が立つ」。暦の上で夏が始まる日で、穀雨の次にあたる。汗ばむ日が出てくるが、梅雨も真夏もまだ先にある。立春、立秋、立冬とともに、季節の始まりを示す「四立」の一つ。
若葉が日に透け、風が青葉のにおいを運ぶ。この頃の風を「風薫る」といい、夏の季語。田には水が引かれ、田植えの支度が進む。鯉のぼりが泳ぐ端午の節句の頃。卯の花が白く咲き、ツツジが盛りを迎える。空気が乾いて、日向と日陰の差がはっきりする。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(5月)
- この月の行事
- 端午・八十八夜・初風炉・葵祭
- 茶花の例
- 杜若・菖蒲・山法師・大山蓮華・白糸草
- 菓子の例
- 柏餅・粽・落とし文
蚯蚓出みみずいずるいま
次候 5月10日〜14日
蚯蚓が地上に出てくる
字「蚯蚓、出ず」。蚯蚓は虫偏の難しい字で、ミミズのこと。「出」は地上に出てくること。
このころ雨のあと、湿った地面や道にミミズが這い出る。土を食べて糞を出し、畑の土をほぐして、作物の根が張りやすい土にする。「蚯蚓」は夏の季語。秋の「蚯蚓鳴く」は、実際にはケラの声とされる。
小満しょうまんいま
5月21日〜6月5日二〇二六年。年により一日前後する
草木が育ち、天地に生気が満ち始める頃。「小」は「少し」の意で、まだ満ち切ってはいない。秋に蒔いた麦が穂をつけ、田植えの用意が整う。
若葉が濃い緑になり、日差しが強まる。麦畑の穂が膨らみ、田には水が張られて、田植えが始まる地域もある。梅の実が青く太る。南の島々はすでに梅雨に入っている。朝は葉の上に露がつき、草の伸びが早く、草取りに追われる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(5月)
- この月の行事
- 端午・八十八夜・初風炉・葵祭
- 茶花の例
- 杜若・菖蒲・山法師・大山蓮華・白糸草
- 菓子の例
- 柏餅・粽・落とし文
蚕起食桑かいこおきてくわをはむいま
初候 5月21日〜25日
蚕が桑を盛んに食べ始める
字「蚕、起きて桑を食む」。「起」は眠りから起き上がること。蚕は脱皮のたびに眠ったように動かなくなり、目覚めると桑の葉を食べる。
このころ養蚕の家の蚕棚で、蚕が桑の葉をさらさらと食べる。その音は雨音のようだと言われる。蚕は桑の葉で育ち、脱皮を四回重ねたあと繭を作る。その糸が絹になる。昔の農家は「お蚕さま」と呼んで大事にした。「蚕」は春の季語。
紅花栄べにばなさかういま
次候 5月26日〜30日
紅花が盛んに咲く
字「紅花、栄う」。「栄」は花が盛んに咲くこと。紅花はキク科の植物で、黄色い花が咲き、時間がたつと赤みを帯びる。
このころ畑一面に、アザミに似た黄橙色の花が咲く。花は朝露で棘がやわらかいうちに摘む。花びらは染料や口紅、食用の油に使われ、摘んだ花を発酵させて固めた「紅餅」が出荷された。山形が産地として知られる。「紅花」は夏の季語。
芒種ぼうしゅいま
6月6日〜6月20日二〇二六年。年により一日前後する
「芒」は稲や麦の穂先にある針のような突起で、そうした穀物の種をまく頃という意味。田植えの目安となる節気で、梅雨入りの頃と重なる。次が夏至。
田に水が張られ、早苗が植えられる。水田では蛙が夜通し鳴く。麦は黄金色に熟して、刈り入れが始まる。雨の日が増えて紫陽花が色づき、日暮れの水辺には蛍が飛ぶ。庭先では梅の実が青く太り、緑の葉の陰に重たげにぶら下がる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(6月)
- この月の行事
- 衣替え・夏越・田植
- 茶花の例
- 紫陽花・下野・夏椿(沙羅)・擬宝珠・河原撫子
- 菓子の例
- 水無月・紫陽花・青梅・若鮎
螳螂生かまきりしょうずいま
初候 6月6日〜10日
蟷螂が生まれ出る
字「螳螂、生ず」。螳螂は蟷螂とも書き、かまきりのこと。「生」は生まれ出ること。前の年の秋に産みつけられた卵のかたまりから、小さな幼虫が出てくる。
このころ草むらや庭木の枝先に、ごく小さなかまきりが現れる。ひとつの卵のかたまりから多くの幼虫が出て、生まれたときから親と同じ姿で、鎌のような前脚を構えている。俳句では「蟷螂生る」が夏の季語。
腐草為蛍くされたるくさほたるとなるいま
次候 6月11日〜15日
腐った草が蒸れて蛍になる(と考えられた)
字「腐れたる草、蛍と為る」。「為」は「〜になる」の意。草が腐って蒸れると蛍に変わると、昔は考えられた。実際は水辺で育った幼虫が土にもぐり、成虫になって飛び出す。
このころ日が暮れた川筋で、蛍が光りはじめる。光は水辺の草むらから湧くように立ちのぼる。蒸し暑く、風のない夜ほどよく飛ぶといわれる。蛍は夏の季語で、飛ぶ蛍を見に出かけることを蛍狩りという。
この候の銘蛍
梅子黄うめのみきばむいま
末候 6月16日〜20日
梅の実が黄ばんで熟す
字「梅の子、黄ばむ」。「子」は実のこと。青かった梅の実が熟して、黄色みを帯びてくる。梅雨の名を、梅の実が熟す頃の雨に由来するとする説もある。
このころ枝の梅の実が黄色く色づき、熟したものは地面に落ちて甘酸っぱい香りを立てる。青いうちに収穫したものは梅酒や梅シロップに、完熟した実は梅干しにする。雨に濡れた梅の木の下が、この頃の景色。
この候の銘青梅
夏至げしいま
6月21日〜7月6日二〇二六年。年により一日前後する
一年で昼がもっとも長くなる日。「至」は行き着く、極まるの意で、日の長さが極まる頃のこと。この日を境に日は短くなっていくが、暑さはこれから本番を迎える。次が小暑。
日本の多くの地域は梅雨のさなかで、曇りや雨の日が続く。長いはずの昼は雲に隠れがちだが、晴れ間には夕方七時を過ぎても空が明るい。田では稲が根づいて株を増やしはじめ、畑では胡瓜や茄子など夏野菜の収穫が始まる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(6月)
- この月の行事
- 衣替え・夏越・田植
- 茶花の例
- 紫陽花・下野・夏椿(沙羅)・擬宝珠・河原撫子
- 菓子の例
- 水無月・紫陽花・青梅・若鮎
乃東枯なつかれくさかるるいま
初候 6月21日〜25日
夏枯草(靫草)が枯れる
字「乃東、枯る」。乃東は夏枯草(靫草)の古い名。花が終わると穂が黒ずみ、夏のうちに枯れたように見えるので夏枯草という。冬至の頃の「乃東生」と対になる。
このころ野原や土手に、紫の小さな花を穂のようにつけるウツボグサ。花が終わると穂は褐色に変わり、立ち枯れたように立つ。まわりの草が勢いよく茂るなかで、先に終わっていく草。穂の形が矢を入れる靫に似ることが名の由来で、乾かした穂は生薬になる。
半夏生はんげしょうずいま
末候 7月1日〜6日
烏柄杓が生える
字「半夏、生ず」。半夏は烏柄杓(からすびしゃく)の漢名で、畑や道端に生える草。この草が生えてくる頃を、田植えを終える目安とした。
このころ半夏生を過ぎてから田植えをすると実りが半分になる、という「半夏半作」の言い伝えがある。烏柄杓は柄杓の形をした緑の苞を畑に立てる。同じ名の雑節もあり、関西ではタコ、福井では焼き鯖、香川ではうどんを食べる地域がある。
小暑しょうしょいま
7月7日〜7月22日二〇二六年。年により一日前後する
「小」はまだ小さい、「暑」は暑さ。暑さが本格的になる手前の頃という意味。梅雨明けが近づき、暑中の始まりとして暑中見舞いを出す時期に入る。次が大暑。
梅雨が明けはじめ、強い日ざしが戻る。向日葵が咲き、ニイニイゼミが鳴き出す。夕方には入道雲が立って、夕立が来る。田の稲は背丈を伸ばして風に波打つ。この節気のはじめに七夕があり、東京では入谷の朝顔市や浅草のほおずき市が立つ。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(7月)
- この月の行事
- 七夕・朝茶・祇園祭・土用
- 茶花の例
- 木槿・桔梗・宗旦木槿・矢筈薄・浜茄子
- 菓子の例
- 葛焼き・水羊羹・錦玉・七夕の菓子
蓮始開はすはじめてひらくいま
次候 7月12日〜16日
蓮の花が開き始める
字「蓮、始めて開く」。蓮は泥の池や沼から茎を立てて咲く水草。花は早朝に開き、昼にはしぼむ。これを数日くり返して散る。
このころ池一面に大きな葉が広がり、その上に淡いピンクや白の花が開く。花が開いているのは朝のうちで、午前のうちに閉じはじめる。葉は水をはじき、雨粒が玉になって転がる。蓮根は同じ蓮の地下茎。
この候の銘蓮
鷹乃学習たかすなわちわざをならういま
末候 7月17日〜22日
鷹の雛が飛び方を覚える
字「鷹、乃ち学習す」。「学習」を「わざをならう」と読む。「習」の字は羽を含み、雛が羽ばたきをくり返す姿に由来するとされる。
このころ山の森で育った鷹の雛が、夏のうちに巣立ちの支度をする。親鳥が運ぶ獲物を食べながら羽ばたきをくり返し、枝から枝へ飛び移りはじめる。やがて自分で狩りを覚える。サシバのように、秋には南へ渡る鷹もいる。
この候の銘祇園囃子
大暑たいしょいま
7月23日〜8月6日二〇二六年。年により一日前後する
「大」は最も、「暑」は暑さ。一年でもっとも暑さが厳しい頃のこと。夏の土用の時期とほぼ重なり、土用の丑の日にうなぎを食べる習わしがある。次が立秋。
梅雨が明け、強烈な日ざしが続く。入道雲が空に立ち、午後の夕立と雷が日課のようになる。蝉の声は最盛で、朝顔は朝のうちに花を開き、田では稲の穂が育つ。梅や衣類、書物を日に当てて干す土用干しの時期でもある。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(7月)
- この月の行事
- 七夕・朝茶・祇園祭・土用
- 茶花の例
- 木槿・桔梗・宗旦木槿・矢筈薄・浜茄子
- 菓子の例
- 葛焼き・水羊羹・錦玉・七夕の菓子
桐始結花きりはじめてはなをむすぶいま
初候 7月23日〜27日
桐の花が実を結び始める
字「桐、始めて花を結ぶ」。「結」は実を結ぶこと。桐の花は初夏に咲いて終わっているので、ここは実がつきはじめる意。桐は軽くて湿気を通しにくく、箪笥の材になる。
このころ桐の枝先に、卵形の実が青く固まってつく。葉は大きく茂り、地面に濃い影を落とす。実は秋に褐色になって割れ、翼のある小さな種を飛ばす。「桐一葉」は、桐の葉が一枚落ちるのを見て秋の訪れを知ることをいう。
土潤溽暑つちうるおうてむしあつしいま
次候 7月28日〜8月1日
土が湿って蒸し暑くなる
字「土、潤いて溽暑し」。「溽」は湿気が多くて蒸すこと。土にも空気にも水気が満ちて、むっとする暑さが続く。
このころ夕立のあと、地面から熱を帯びた湿気が立ちのぼる。夜になっても気温が下がらず、寝苦しい晩が続く。草は一日で伸び、草むしりが追いつかない。植木鉢には朝夕の水やりが欠かせない頃。
この候の銘秋隣
大雨時行たいうときどきふるいま
末候 8月2日〜6日
時として大雨が降る
字「大雨、時に行る」。「時行」は「ときどきふる」と読む。長く降り続く梅雨の雨ではなく、ときどき突然に降る激しい雨のこと。
このころ昼過ぎに入道雲が立ち、空が急に暗くなって、雷とともに土砂降りになる。しばらくすると雨は上がり、涼しい風が通る。「夕立は馬の背を分ける」といい、道一本へだてた隣は降っていないほど、狭い範囲に降る雨。夕立は夏の季語。
この候の銘夕立
立秋りっしゅういま
8月7日〜8月22日二〇二六年。年により一日前後する
秋が始まる節気。暦の上ではこの日から秋だが、実際は暑さの盛りにあたる。この日からの暑さは「残暑」と呼び、挨拶状も暑中見舞いから残暑見舞いに変わる。
日中は猛暑のままで、蝉もまだ盛んに鳴く。それでも朝夕には空気が軽くなり、日の入りが早まったことに気づく。入道雲の脇に、高く薄い筋雲が見えてくる。夕空を飛ぶトンボが増え、夜は虫の声が混ざりはじめ、お盆の支度も始まる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(8月)
- この月の行事
- 盆・送り火・立秋
- 茶花の例
- 木槿・桔梗・女郎花・吾亦紅・秋海棠
- 菓子の例
- 水羊羹・葛切り・とうもろこしの菓子
蒙霧升降ふかききりまとういま
末候 8月17日〜22日
深い霧が立ち込める
字「蒙霧、升降す」。「蒙」は覆う、「升降」は昇り降りすること。霧が立ちのぼり、あたり一面に漂うさまを表す。
このころ朝、盆地や川沿い、山あいに霧が立つ。昼の暑さと朝夕の冷えの差が、空気中の水蒸気を霧に変える。日が昇ると霧は消え、また暑い一日になる。春は霞、秋は霧と呼び分ける。朝霧の日は晴れるという言い伝えもある。
この候の銘朝霧
処暑しょしょいま
8月23日〜9月6日二〇二六年。年により一日前後する
「処」はとどまる、おさまるの意。暑さがおさまりはじめる頃のこと。ただし残暑は続き、台風が多くなる時期でもある。次が白露。
昼は暑くても、朝夕の風は涼しくなる。夜は虫の声が増え、空には鱗雲が広がる。畑では里芋の葉が大きく広がる。稲が穂を出して実りはじめる頃で、台風の風と雨は農家の気がかり。昔は、立春から数えて二百十日前後を厄日として警戒した。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(8月)
- この月の行事
- 盆・送り火・立秋
- 茶花の例
- 木槿・桔梗・女郎花・吾亦紅・秋海棠
- 菓子の例
- 水羊羹・葛切り・とうもろこしの菓子
綿柎開わたのはなしべひらくいま
初候 8月23日〜27日
綿を包む萼が開く
字「綿の柎、開く」。柎は花の萼(がく)のこと。綿の実を包むがくがはじけて、中から白い綿毛が見えはじめる。
このころ綿畑に、淡い黄色や白の花が咲く。花は咲いた翌日には赤みを帯びてしぼむ。そのあとに実がふくらみ、秋に割れて白い綿毛が現れる。かつては日本の各地で綿が栽培され、布の原料になった。
天地始粛てんちはじめてさむしいま
次候 8月28日〜9月1日
ようやく暑さが鎮まる
字「天地、始めて粛し」。「粛」は引き締まる、静まるの意(粛々の「粛」)。暑さが引いて、天地の気が静まりはじめる。
このころ日中は残暑でも、夜は窓を開けると涼しい。蝉の声が減り、コオロギや鈴虫の声が前に出てくる。空気が澄んで、月や星がくっきり見える。稲穂が重くなりはじめ、穂先がうつむく。
この候の銘初嵐
白露はくろいま
9月7日〜9月22日二〇二六年。年により一日前後する
草の葉に降りた露が白く光って見える頃。夜の冷え込みが増し、空気中の水分が露になる。五行では秋に白を当てる。秋が深まる入口で、次が秋分。
朝、草の葉先や蜘蛛の巣に露が並び、地面が黒く湿る。日中は暑さが残るが、朝夕は肌寒い日が出てくる。ススキの穂が出て、萩の花が咲く。空では鱗雲が増え、夜は月が冴えて、虫の声が澄んで聞こえる。台風や秋雨が続くことも多い。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(9月)
- この月の行事
- 重陽・名月・彼岸
- 茶花の例
- 秋の七草(萩・薄・桔梗・撫子・女郎花・藤袴・葛)・吾亦紅・杜鵑草
- 菓子の例
- 月見団子・着せ綿・栗の菓子
鶺鴒鳴せきれいなくいま
次候 9月12日〜16日
鶺鴒が鳴き始める
字「鶺鴒、鳴く」。鶺鴒(せきれい)は水辺にすむ小鳥。長い尾を上下に振って歩き、「チチン、チチン」と鳴く。石叩きの別名がある。
このころ川原や田の畦、水たまりのそばで、セキレイが尾を振りながら小走りする。ハクセキレイは市街地でもよく見かける。キセキレイは腹が黄色い。波を描くように飛びながら鳴く。鶺鴒は秋の季語。
玄鳥去つばめさるいま
末候 9月17日〜22日
燕が南へ帰っていく
字「玄鳥、去る」。玄鳥は燕の別名。「玄」は黒や深い色をいう字で、黒い背の鳥を表す。春の「玄鳥至」と対になり、来た燕が南へ帰っていく。
このころ春に来て軒先で子を育てた燕が、南へ渡る支度をする。電線や河原の葦原に若鳥と親鳥が集まって群れをつくり、ある日いなくなる。東南アジアなどで冬を越し、春にまた戻ってくる。「燕帰る」は秋の季語。
秋分しゅうぶんいま
9月23日〜10月7日二〇二六年。年により一日前後する
昼と夜の長さがほぼ等しくなる日。太陽が真東から昇り、真西に沈む。この日を境に夜のほうが長くなっていく。秋の彼岸の中日で、前後の七日間が彼岸にあたる。
土手や畦に彼岸花が赤く咲く。「暑さ寒さも彼岸まで」といわれ、残暑がおさまって、朝晩は薄い上着が欲しくなる。稲刈りが進み、刈った稲を干す稲架が並ぶ。栗や柿が実り、夜は虫の声が盛んで、秋の長雨が続く年も多い。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(9月)
- この月の行事
- 重陽・名月・彼岸
- 茶花の例
- 秋の七草(萩・薄・桔梗・撫子・女郎花・藤袴・葛)・吾亦紅・杜鵑草
- 菓子の例
- 月見団子・着せ綿・栗の菓子
雷乃収声かみなりすなわちこえをおさむいま
初候 9月23日〜27日
雷が鳴らなくなる
字「雷、乃ち声を収む」。「収」はおさめる、しまうの意。夏のあいだ鳴りつづけた雷が、鳴りをひそめる。春分の「雷乃発声」と対になる。
このころ夕立のたびに鳴っていた雷が減り、入道雲に代わって鱗雲やいわし雲が空に広がる。遠くで光るだけの雷は「稲妻」と呼ばれる。雷が稲を実らせると昔は信じられ、稲の「つま(夫)」の名がついた。
この候の銘萩
蟄虫坏戸むしかくれてとをふさぐいま
次候 9月28日〜10月2日
虫が土中に穴をふさぐ
字「虫、隠れて戸をふさぐ」。「蟄」は虫が地中にこもること、「坏」は土でふさぐ意。春の啓蟄の候「蟄虫啓戸」と対になる。
このころ蛙や蛇、小さな虫が冬ごもりの穴に入り、入口を土でふさぐと考えられた時期。実際に見る機会は少ないが、朝晩の冷え込みで虫の動きは目に見えて鈍る。「蛇穴に入る」は秋の季語で、春の「蛇穴を出づ」と対になる。
水始涸みずはじめてかるるいま
末候 10月3日〜7日
田畑の水を干し始める
字「水、始めて涸る」。「涸」は水が干上がること。稲刈りを前に田の水を抜いて、田の土を乾かしはじめる。
このころ稲刈りの前に田の水を落とし、土が乾いて固くなる。刈った稲は稲架に掛けて天日で干す地域もあり、新米の季節が始まる。川の水は減って澄み、秋晴れの空を映す。田のまわりには彼岸花が咲く。
寒露かんろいま
10月8日〜10月22日二〇二六年。年により一日前後する
「寒露」は、晩秋の冷たい露のこと。白露より一段と冷え、露が霜に変わる手前の時期にあたる。秋分の次の節気で、秋の深まりが目に見えてくる。
空が高く澄み、朝晩の冷え込みがはっきりしてくる。稲刈りが終わりに近づき、田には稲架(はさ)に掛けた稲が並ぶ。山では紅葉が始まり、新米、栗、柿が店に出る。北の国から雁や鴨が渡ってきて、菊の花が盛りになる。秋の長雨が去り、晴れた日が続く。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(10月)
- この月の行事
- 名残・中置
- 茶花の例
- 残花・吾亦紅・杜鵑草・藤袴・野菊・紅葉
- 菓子の例
- 栗きんとん・亥の子餅(10月下旬〜)・柿
鴻雁来こうがんきたるいま
初候 10月8日〜12日
雁が飛来し始める
字「鴻雁、来たる」。鴻は大きな雁、雁は小さな雁を指すとされる。どちらも北の国から海を渡って冬を越しに来る渡り鳥で、「来」はこちらへ渡ってくる意。
このころ夕暮れの空を、雁が列を組んで渡っていく。姿より先に、遠くの鳴き声が聞こえることが多い。一列やかぎ形に並んだ群れが月を横切る景は、秋の夜の定番。雁は秋の季語で、雁が渡る頃に吹く北寄りの風は「雁渡し」と呼ばれる。
この候の銘初雁
菊花開きくのはなひらくいま
次候 10月13日〜17日
菊の花が咲く
字「菊の花、開く」。菊は昔、中国から伝わった花で、秋を代表する。「開」は蕾がほころんで咲くこと。重陽は菊の節句とも呼ばれ、菊を愛でて長寿を願った。
このころ庭先や軒下で小菊が咲き、花屋や直売所にも菊が並ぶ。大輪、懸崖仕立て、小菊と姿はさまざまで、各地で菊花展が開かれる。花びらを食べる菊もあり、酢の物やおひたしにする。菊は秋の季語で、「菊の香」も秋の句に詠まれる。
この候の銘野菊
蟋蟀在戸きりぎりすとにありいま
末候 10月18日〜22日
蟋蟀が戸の辺りで鳴く
字「蟋蟀、戸に在り」。蟋蟀は今のコオロギ。古い日本語ではコオロギを「きりぎりす」と呼んだ。今のキリギリスとは別の虫。寒さを避けて戸口に寄ってくる様子をいう。
このころ夏の間は野で鳴いていた虫が、冷え込むと軒下や縁の下、玄関の戸口まで来て鳴く。声は日ごとに弱まり、夜の静けさに細く聞こえるだけになる。虫の声が遠のくと、秋も終わりが近い。コオロギは秋の季語。
この候の銘夜寒
霜降そうこういま
10月23日〜11月6日二〇二六年。年により一日前後する
「霜降」は、露が冷えて霜に変わる頃の名。朝の冷え込みが強まり、初霜が見られ始める。秋の最後の節気で、次の立冬から暦は冬に入る。
紅葉は山の高いところから進み、里の木々も赤や黄に染まってくる。晴れた夜は冷え込み、明け方に畑や屋根が白くなる日が出てくる。柿や蜜柑が色づき、新蕎麦や大根が出回る。「秋の日はつるべ落とし」の言葉どおり、夕暮れが急に来る。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 風炉(10月)
- この月の行事
- 名残・中置
- 茶花の例
- 残花・吾亦紅・杜鵑草・藤袴・野菊・紅葉
- 菓子の例
- 栗きんとん・亥の子餅(10月下旬〜)・柿
立冬りっとういま
11月7日〜11月21日二〇二六年。年により一日前後する
暦の上で冬が始まる節気。「立」は新しい季節が立ち上がること。立春・立夏・立秋と並ぶ四立のひとつ。実際の寒さはこれからで、冬の入口にあたる。
北風が吹き、街路樹の葉が舞う。木枯らし一号は、秋から冬への切り替わりを知らせる風として発表される。晴れた日の日だまりは暖かく、この穏やかな日和を「小春日和」と呼ぶ。山茶花が咲き、大根や白菜が畑で太り、みかんが出回る。日暮れが早く、夕方には急に暗くなる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(11月)
- この月の行事
- 炉開き・口切・亥の子・七五三
- 茶花の例
- 椿(初嵐・西王母)・照葉・白玉椿・つわぶき
- 菓子の例
- 亥の子餅・善哉・織部饅頭
山茶始開つばきはじめてひらくいま
初候 11月7日〜11日
山茶花が咲き始める
字「山茶、始めて開く」。山茶はもとは椿を指す字だが、この候では山茶花(さざんか)の開花と説明されることが多い。「山茶花」の名も、音読みの「さんざか」が転じたもの。
このころ垣根や庭先で、山茶花が白や桃色の花を開く。冬の早い時期に咲き、花びらが一枚ずつはらはらと散り、根元に敷き詰められる。椿は花ごと落ちるので、その違いで見分けられる。山茶花は冬の季語。
この候の銘山茶花
地始凍ちはじめてこおるいま
次候 11月12日〜16日
大地が凍り始める
字「地、始めて凍る」。大地の表面や土の中の水が凍り始めるという意味。「凍」は水が氷になること。霜柱が立つ頃を指す。
このころ北国や山あいでは、朝の土に霜柱が立つ。踏むとさくさくと音がして、日が射すとゆるんで崩れる。水たまりには薄い氷が張る。畑では霜よけに藁や菰を掛け、大根や白菜の冬越しの支度が進む。霜柱は冬の季語。
金盞香きんせんかさくいま
末候 11月17日〜21日
水仙の花が咲く
字「金盞」は金の杯のこと。水仙の黄色い小さな杯の形を金の杯に、白い花びらを銀の台に見立て、水仙を「金盞銀台」とも呼んだ。「香」はその花が香る意。
このころ水仙が咲き始め、白い花びらの中心に黄色い杯が見える。冷えた空気に甘く澄んだ香りが漂う。越前海岸や淡路島など、海沿いの斜面に群生地がある。雪の中でも咲くので「雪中花」の別名があり、水仙は冬の季語。
小雪しょうせついま
11月22日〜12月6日二〇二六年。年により一日前後する
「小雪」は、雪が降り始めるが、まだ積もるほどではない頃の名。「小」は量の少なさを表し、次の大雪で本格的な雪になる。冬の二番目の節気。
北国や高い山では初雪が降り、里では冷たい雨が増える。木の葉はほぼ散り、日だまりに落ち葉が溜まる。軒先には大根や柿が干され、白菜やねぎが畑で太る。北陸では雷が鳴り、鰤が獲れ始める「鰤起こし」の頃。日暮れが早く、吐く息が白い。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(11月)
- この月の行事
- 炉開き・口切・亥の子・七五三
- 茶花の例
- 椿(初嵐・西王母)・照葉・白玉椿・つわぶき
- 菓子の例
- 亥の子餅・善哉・織部饅頭
虹蔵不見にじかくれてみえずいま
初候 11月22日〜26日
虹を見かけなくなる
字「虹、蔵れて見えず」。「蔵」は隠れる、しまいこむ意。夏のように雨上がりの空に虹がかかることが減り、虹が隠れてしまったように見える。
このころ夏の夕立のあとに見かけた虹が、この頃には出なくなる。冬の雨は短く、降ったかと思うと雲が切れて冷たい風が吹く。空気は乾き、雨上がりに水滴が空に残る景色が減る。虹は夏の季語。
橘始黄たちばなはじめてきばむいま
末候 12月2日〜6日
橘の実が黄色くなり始める
字「橘、始めて黄ばむ」。橘は日本に古くから自生する柑橘で、小さな実をつける。実が熟して緑から黄色に変わる。常緑樹で、冬も葉を落とさない。
このころ濃い緑の葉の間に、小さな黄色い実が目立ってくる。葉が落ちた庭でも橘は緑を保つ。蜜柑や金柑も色づき、店先に並ぶ。橘の実は小さく酸味が強いので、生では食べにくい。蜜柑は冬の季語。
大雪たいせついま
12月7日〜12月21日二〇二六年。年により一日前後する
「大雪」は、雪が本格的に降り積もる頃の名。山々は雪をかぶり、平地でも降る所が出てくる。次の節気は冬至で、一年で最も日が短くなる。
日本海側や北国では雪が積もり、雪囲いや雪吊りが仕上がる。太平洋側は空気が乾いて、からっ風の吹く晴天が続く。鰤や蟹、牡蠣が旬を迎え、ねぎや白菜も甘くなる。日が短く、夕方の五時前には暗くなり、乾いた空に星がよく見える。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(12月)
- この月の行事
- 事始め・夜咄・冬至・除夜・歳暮
- 茶花の例
- 椿・寒菊・水仙・千両・白玉椿
- 菓子の例
- 柚子の菓子・雪の菓子・歳暮の干菓子
閉塞成冬そらさむくふゆとなるいま
初候 12月7日〜11日
天地の気が塞がって冬となる
字「閉」も「塞」も「ふさぐ」の字。天地の気がふさがって、冬になるという意味。読みの「そらさむくふゆとなる」は、空が寒々としてくる様子に寄せた日本の読み方。
このころ空は鉛色の雲に覆われる日が多く、日本海側では雪やみぞれが降る。日が短く、冷たい風で外の景色から色が引いていく。軒先には干し大根が揺れ、吐く息が白くなる朝が増える。
この候の銘冬籠
熊蟄穴くまあなにこもるいま
次候 12月12日〜16日
熊が冬眠のために穴に隠れる
字「熊、穴に蟄る」。「蟄」は虫や獣が土の中にこもる意で、啓蟄の「蟄」と同じ字。熊が冬ごもりの穴に入ることをいう。
このころ本州や北海道の山で、熊が木の洞や岩穴、土の穴に入って冬眠する。秋に木の実をたっぷり食べて蓄えた脂肪で、春までほとんど何も口にせず眠る。子熊が生まれるのは、冬眠中の穴の中。
この候の銘冬籠
鱖魚群さけのうおむらがるいま
末候 12月17日〜21日
鮭が群がり川を上る
字「鱖魚」はもとは中国のケツギョという魚の字で、日本の暦では鮭に当てて「さけ」と読む。「群」は群れること。鮭が群れをなして川を上る。
このころ海で育った鮭が、生まれた川へ戻って上流を目指す。北海道や東北の川では、産卵のために上る鮭の姿が見られる。産卵を終えた鮭は力尽きる。東日本では鮭が年取り魚とされ、年の暮れに新巻鮭が店に並ぶ。
冬至とうじいま
12月22日〜1月4日二〇二六年。年により一日前後する
一年で昼がもっとも短く、夜がもっとも長い日。この日を境に、日は少しずつ長くなる。「冬に至る」と書くが、寒さの底はまだ先で、小寒と大寒が控えている。
日が短く、夕方には急に暗くなる。「冬至冬なか冬はじめ」と言われ、暦では冬の真ん中だが、寒さはこれから本番になる。柚子を浮かべた風呂に入り、南瓜や小豆粥を食べる習わしが残る。陰が極まって陽に転じる、一陽来復の日ともされる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(12月)
- この月の行事
- 事始め・夜咄・冬至・除夜・歳暮
- 茶花の例
- 椿・寒菊・水仙・千両・白玉椿
- 菓子の例
- 柚子の菓子・雪の菓子・歳暮の干菓子
麋角解さわしかのつのおつるいま
次候 12月27日〜31日
大鹿が角を落とす
字「麋」は中国で大型の鹿を指した字。「角解」は角が抜け落ちること。日本の鹿(ニホンジカ)の角が落ちるのは春先で、この候は大陸の暦の見立てに近い。
このころ冬の山では、角を残した雄鹿が冬毛をまとい、枯れ草や木の皮を食べて過ごす。鹿の角は毎年一度落ちて生え変わり、生えたばかりの柔らかい角は袋角と呼ばれる。落ちた角は「落し角」として春の季語になっている。
雪下出麦ゆきわたりてむぎのびるいま
末候 1月1日〜4日
雪の下で麦が芽を出す
字「雪、下に麦を出だす」。「出」は芽を出すこと。麦は秋に種をまいて冬を越す作物で、積もった雪は布団のように地面の温度を保つ。
このころ麦は秋のうちに種をまかれ、冬の畑で細い緑の芽を並べる。雪が積もる地方では、雪が畑を覆って寒風や凍結から麦を守る。年が明けると麦踏みが始まり、踏まれた麦は根を張って強くなる。
小寒しょうかんいま
1月5日〜1月19日二〇二六年。年により一日前後する
「寒の入り」にあたる節気。寒さがまだ最大ではないので「小」だが、この日から節分までが一年でもっとも冷える「寒の内」になる。次の大寒で寒さが極まる。
松の内が明けると、年賀に代わって寒中見舞いの季節になる。池や田に氷が張り、朝は水道管が凍る日も出てくる。庭では蝋梅が香り、南天の赤い実が目立つ。寒の水は雑菌が少ないとされ、味噌や酒、寒天をこの時期に仕込む。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(1月)
- この月の行事
- 初釜・松の内・七草・鏡開き・小正月
- 茶花の例
- 結び柳・曙椿・白玉椿・水仙・南天
- 菓子の例
- 花びら餅・常盤饅頭・干支の菓子
芹乃栄せりすなわちさかういま
初候 1月5日〜9日
芹がよく生育する
字「芹、乃ち栄う」。芹は春の七草のひとつ。「乃」は「すなわち」、「栄」は盛んに育つこと。一説に、競い合うように生えるので「せり」の名がついた。
このころ田の畦や水辺で、冷たい水に根を浸した芹が緑を濃くする。摘み頃になり、七草粥にも使う。香りが強く、根まで食べる鍋もある。芹は春の季語だが、まだ寒いうちから摘まれる。
この候の銘若菜
水泉動しみずあたたかをふくむいま
次候 1月10日〜14日
地中で凍った泉が動き始める
字「水泉、動く」。水泉は地中から湧き出る清水のこと。「動」はその水が動き出すこと。読みの「あたたかをふくむ」は、水がわずかな温みを含むという意味。
このころ外が氷点下でも、地下から湧く水は凍らない。井戸水や湧き水は冬には温かく感じられ、朝の水面から湯気が立つ。氷の張った池の縁だけが、湧き水のところで黒く解けている。寒さはこれから底に向かう。
雉始雊きじはじめてなくいま
末候 1月15日〜19日
雄の雉が鳴き始める
字「雉、始めて雊く」。「雊」は雉が鳴くことだけを表す字で、雄が雌を呼んで鳴くこと。鳴き声そのものを一字で表す漢字は珍しい。
このころ雄の雉が「ケーン、ケーン」と甲高く鳴き、羽を打ち鳴らして縄張りを示す。この羽音は「母衣打ち(ほろうち)」といわれる。雉は日本の国鳥で、春の季語。「雉も鳴かずば撃たれまい」は、鳴き声で居場所を知られる雉から出た言葉。
大寒だいかんいま
1月20日〜2月3日二〇二六年。年により一日前後する
「大寒」は一年でもっとも寒い頃の意。二十四節気の最後の節気で、寒さはここで底を打つ。次の立春から新しい暦の一年が始まる。
川や池に厚い氷が張り、軒先につららが下がる。朝の水たまりは昼まで解けない。寒稽古や寒中水泳が行われ、寒仕込みの酒や味噌、寒天、凍み豆腐づくりが盛んになる。日暮れが少しずつ遅くなり、梅のつぼみがふくらんでくる。
茶の湯の目安
- 炉・風炉
- 炉(1月)
- この月の行事
- 初釜・松の内・七草・鏡開き・小正月
- 茶花の例
- 結び柳・曙椿・白玉椿・水仙・南天
- 菓子の例
- 花びら餅・常盤饅頭・干支の菓子
款冬華ふきのはなさくいま
初候 1月20日〜24日
蕗の薹が蕾を出す
字「款冬」は蕗(ふき)のこと。「華」は花を意味する。蕗の薹は葉より先に出る花のつぼみで、雪の下から顔を出す。
このころ雪の残る土手や畑の隅に、淡い緑の蕗の薹が顔を出す。雪をかぶった枯れ草の中で、丸い蕾だけが緑に見える。春を告げる最初の山菜で、天ぷらや蕗味噌にするとほろ苦い。蕗の薹は春の季語。
水沢腹堅さわみずこおりつめるいま
次候 1月25日〜29日
沢に氷が厚く張りつめる
字「水沢、腹まで堅し」。水沢は沢の水や池、腹は真ん中の意。氷が表面だけでなく、中心まで堅く凍りつくほどの寒さをいう。
このころ谷川も池も厚い氷に閉ざされ、朝は水たまりの氷を踏むとぱりぱり割れる。軒からはつららが垂れ、滝が凍って白い柱になることもある。氷の下では、魚や蛙がじっと春を待つ。つららは冬の季語。
この候の銘氷柱
鶏始乳にわとりはじめてとやにつくいま
末候 1月30日〜2月3日
鶏が卵を産み始める
字「鶏、始めて乳す」。「乳」は産むこと。ここでは卵を産む意。読みの「とや」は鳥屋、鶏小屋のことで、卵を産むために小屋につく。
このころ冬は日が短く、鶏が産む卵の数は減る。日が長くなり始めるこの頃から、また産み始める。朝、藁の巣に温かい卵が一つ二つ見つかる。大寒の日に産まれた卵は縁起がよく、金運が上がるといわれる。